【第六話】闇の中で知ったストリートの世界…そして路上ギタリストへ

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あの輝くような体験をした次の瞬間…

まさか、こんな感じで闇の世界の中に突き落とされることになるとは夢にも思わなかった。

しかし、闇の世界の中に突き落とされても
不思議と諦めるという選択はなかった。

自分でなんとかして独学でやって行くしかない…。

それしか道がなくなったが、
どうやって行くかはなんとなく見えていた。

前から気になっていたストリートミュージシャンから
技を盗もうと心の中で決めていたのだ。

最初は、フラメンコ自体が何がなんだかわからないわけで、
当然、クラシックギターとフラメンコギターの違いもわかってない。

もうなんでもいいからとりあえず弾けるようになろうと、
まず、誰かを参考にすることにして、ギタリスト探しから始めた。

マジョール広場やプエルタ・デル・ソルのあたりを徘徊しながらの音を探しに行った。

大体、人が集まっている場所に行けば
誰かがギターを弾いている。

そんな何人かのギタリストの中で、

ひとり、「アレキサンダー」という凄腕のギタリストがいた。

あまりに演奏が凄いので、人だかりができていた。

目の前のケースの中には100ペセタが山のように積み上っている。

曲が終わって立ち上がったので話しかけてみると、
ロシアから来たらしく、3ヶ月に一回マドリッドに出稼ぎに来るらしい…

元々はロシアのお抱えギタリストだったが、
ペレストロイカ崩壊に伴い職を失って路上ライブをやっていると言っていた。

う~ん、この人から盗むのは悪いな…

と自分の心の声が聞こえた。

それにしても、流石はロシアお抱えのギタリスト
だけあって信じられないくらい上手くて歌心のある演奏だった。

その後、彼とはたまに路上で挨拶する仲になる。

次に話しかけたギタリストは「イグナシオ」
というアルゼンチンのギタリストだった。

この人の演奏は目の前で聴いていても、
どこから流れてきてるのか不思議になるくらい美しい音色だった。

しばらく見ていてたが、
ずっと見ている自分が気になったのか、

イグナシオは

「バルに行こう!」

と言ってきた。

そこでいろんな話をした。

イグナシオは昔、
パリの国際ギターコンクールで2位になったことがあると言っていた。

1位は日本のクラシックギターの大家「山下和仁」氏だったらしい。

昔は、フラメンコの踊りの伴奏も
覚えてやりながら糊口を凌いでいたという。

なぜ、いま路上なのかというと、

全く誰からも拘束されずに自分のペースで
ギターに打ち込めるからこのスタイルを選んでいると言っていた。

たった一杯のコーヒーと、
ギターさえあればずっと人生楽しめるとも言っていた。

とにかく練習が好きなんだと語った。

アルゼンチンから出てきて15年と言っていた。

このイグナシオから
後に、ギターをアンプに繋ぐジョイントの部品
「パスティージャ」を買うことになる。

しばらく話して、別れた。

通りを変えて、プエルタ・デル・ソルから
「カジャオ」に抜ける道を歩いた。

すると、一人のギタリストが演奏していた。

そのギタリストは、くるくるの長髪を後ろで結んだ
チリ出身のハイメという、まだ若い人だった。

前の2人に比べるとちょっと力が入ったような演奏に思えた。

話しかけてみると驚いたことに、

「これから、うちにおいでよ!」

といきなり招待してくれた。

たまたま、
うち近くのピソに住んでいて2年前に買ったと言っていた。

「路上で稼いだお金で買ったの?」

と驚いた口調で言った自分に、

逆に驚きながら

「そうだよ。買った時はボロかったから、その後リフォームをしたよ。」

と言った。

一瞬、呆気にとられ、

(路上ってすごい世界だな…アレキサンダーといい、イグナシオといい…夢があるな)

それにしても、ピソまで買うというのはすごいことだ。

わらしべ長者というより、まるで錬金術師に見えた。

その後、ハイメは奥さんと一緒に「エンパナーダ」を作ってご馳走してくれた。

いままで食べた中で一番大きいエンパナーダだった。
(未だに一番である。)

そして、それを食べ終わると今度は、
自分の部屋に連れていってくれた。

中に入ると、最先端の機材がズラーッと並んでいる。

パソコンの前に座ったハイメがギターを弾き出すと、
その音が全て画面に音符となって出てきた。

「いま、これにハマって曲を作ってるんだ」とハイメは言った。

その後、話題は音楽の方に移り、
自分は先日のトマティートの話を興奮状態で話したが、

ハイメはフラメンコには全く興味がないと言った。

しばらく話した後、
今日のお礼を言って帰った。

帰り道、いろんな出来事が起こった
この数日間を思い返してみた。

輝く世界から、
一気に闇の世界へと突き落とされ、
一瞬は行き場を失ってしまったが、

今日、出会ったストリートミュージシャン達の
生活を垣間見て再び希望の光が見えた。

翌日、

いつもスペイン銀行の地下道で、
エレキギターを弾いているナチョに会いに行った。

彼はエレキギターなのでフラメンコとは
ジャンル違いだと思っていたが、
路上で演奏してることには変わりない。

相変わらず目が合うと、「オラー!」
といい感じで迎えてくれた。

しばらく話してから、
「演奏を見ていてもいいか?」と訊ねると
ナチョは「もちろん!」と快く承諾してくれた。

そして一番見やすい、
斜め前の角度から観察することにしました。

約2時間ほど見て、
また明日も来るよ!約束をして帰宅。

そして翌日、

流石に2日立て続けて見に行ったら、
大体の流れはわかった。

何を弾けば人は立ち止まって、お金を入れるのか。

それがわかったんです。

その中でも、フランシスコ・タレガ作曲の
「アルハンブラの思い出」は圧倒的に人気がありました。

(よし、これから覚えて行こう!)

そう決めると、音をテープで録音させてもらうことにした。

ナチョは人懐っこい人ではあったが、流石に
スペイン人だけあって2回はめんどくさがって弾いてくれなかった。

携帯がない時代で、しかもカメラも持っていなかったので、
奏法は頭で記憶して、コードは絵で書いて覚えることにした。

時間だけは莫大にあったので、
それからは毎日毎日来る日も来る日も練習を繰り返した。

少しわからないところがあると、
スペイン銀行のトンネルまで行って見て覚える…

ということを続けた。

練習は一日10~17時間…

何回も何回もギターを壊しそうになりながらも、
こんな感じで、時間をある程度掛ければ、
数日間で最初の部分くらいはなんとか弾けるようになった。

そして、

ついに念願のストリートに出ることにした。

初日は、レティーロ公園入り口にあるトンネル。

ナチョのようにアンプも無いし生ギターの音で、
しかも腕前もしょぼいので、
せめて音が響くようにと出来るだけ細いトンネルを選んだ。

結果、5時間弾いて、150ペセタ。

通りがかった5人くらいのおばあさんが入れてくれた。

帰り道に、本当に飛び上がった。

いや~嬉しかった…有頂天です。

あり得ないでしょ?

ほぼ弾けもしないのにお金が入るなんて。

『えーっ、嘘でしょ?』と思いましたよ。

150ペセタと言ったら、円で言うと130円くらいなんですが、
それだけあれば、その時代の一日くらいなんとか生きれます。

フランスパン一本が40ペセタで、
スーパーに行けばハムとかチーズは切れ端をくれたりするんです。

しかもマドリッドは水道水が飲める。

この日を境に、
毎日、路上へと演奏しに出掛けるようになった。

街でギターを弾いては、
部屋でギターの練習と個展のための作品を制作して、
そして、たまに壁画やデザインの仕事を受ける…

といった理想の流れの生活になりつつありました。

ギターでもなんでも
普通はなんでも褒められてはじめるもんだと思いますが、

自分の場合はこんな感じでギター人生が始まって行ったのです。

 

つづく

【第七話】闇からの快進撃…そして、運命の出会い

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